感染拡大を止める イギリス政府の規制解除策

イギリス規制解除感染者&症例
規制解除を発表したジョンソン首相
この記事は約10分で読めます。

英ジョンソン首相、規制解除「今しかない」。ロックダウン解除に踏み切った根拠は何か?をデータで読み解き、これからの日本のコロナ対策のヒントを探る。

こんにちは。

ヘルスケア・アドバイザーの前田 義徳(マエダ ヨシノリ)です。

今回のテーマは、「感染拡大を止める イギリス政府の規制解除策」です。

【お断り】
今回の記事は、公衆衛生学の視点で検証しています。イギリス政府とは全く関係ございません。新型コロナウイルス収束に向けた一つのサイエンスとしてお読みいただければ幸いです。

イギリス政府の規制解除とは

7月13日、英ジョンソン首相は、新型コロナ対策の規制を7月19日から撤廃することを発表しました。

7月19日からは、ソーシャルディスタンスなどの行動規制も撤廃し、マスク義務化も解除し、ナイトクラブなどの営業も認められます。(マスクに関しては「公共交通機関などでは着用を勧める」としています。)

この規制解除に踏み切ったイギリス政府の目的は、「経済を復活させるための規制解除。インフルエンザのシーズンが来る秋までに、あえて感染ピークを作る。しかし、この解除により新規感染者数は一日あたり10万人に達する可能性がある」としており、新規感染者数の増加は「許容範囲内である」としています。

一方の今の日本。いつまで新規感染者数や死亡者数だけに注目し、ワクチン頼みと国民へのお願いを続けるんだろうか?これから何度も緊急事態宣言を繰り返すのだろうか?

こんな不安の中、今回のイギリス政府が発表した「許容範囲内」と言い切った裏側には、日本にも使えるヒントがあるんじゃないかと思い、検証することにいたしました。

しかし、イギリス政府の戦略に期待できる一方で、発表内容に裏付けされた具体的な根拠が示されていないのも疑念が残ります。なぜなら、公衆衛生という概念を生み出した本家「イギリス」ですから、何かの裏付けされた根拠があるものと考えられます。

その「許容範囲内」の根拠を探ってみよう!

では、実際のデータを使って、イギリス政府の戦略の根拠に迫ってみたいと思います。

使用するデータは、信頼性の高い公共機関や大学が公開している次のデータを使います。

また、可能な限り数字にズレがないように、次の前提条件をつけます。

  • イギリス政府が発表した7月15日時点のデータを基準にします。
  • 「イギリス」の数字には、「イングランド」「スコットランド」「ウェールズ」そして「北アイルランド」の数値を含めます。
  • イギリスでまん延している変異株は「デルタ株」に置き換わっているため、デルタ株の感染率、死亡率を使用します。また、コロナウイルスは常に変異していますが、デルタ株以上に大きな影響力となる変異株が出現しないものとします(計算上)。
  • 集団免疫は、各国政府の発表数「人口の70%~90%が抗体を持つ必要がある」の数値を使用します。

イギリスの戦略「集団免疫力を上げて勝つ!」

人類がウイルスに勝ってきた歴史から学ぶと、ウイルスを収束させるには人口の70%~90%が免疫(=集団免疫)をもつ必要があります。

その集団免疫の状態になるには、ワクチン接種あるいはウイルスに感染して抗体を作ること(交差免疫)によって、人口の7割以上が免疫を持つ必要があることを意味します。

【豆知識①】
集団免疫に関しては、従来、多くの専門家が示した「60%~70%」という見方でしたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関しては「70%~90%」という見方にシフトしています。
【豆知識②】
「交差免疫」とは、今回の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に限った事でなく、過去に「ある病原体」に感染したことで、その病原体に似ている別の病原体に対しても働く「免疫」のことを言います。

そのため、SARS-CoV-2に感染した方は、SARS-CoV-2に対する抗体を持っています。しかし、デルタ株以前のアルファ株に感染した人がデルタ株に感染する事例もあることから、今回の計算では「デルタ株に感染し、デルタ株に対する抗体をもった方」を交差免疫者としてカウントします。

また、SARS-CoV-2に感染しなかった方のほとんどは、既に風邪コロナウイルスに感染し抗体を持っていた方で、その多くは年齢別にみると16歳以下で60%以上の抗体が検出されています。しかし、17歳以上では抗体が10%未満しか検出されませんでした。この結果から、16歳以下の小児、若者は抗体をもっている(交差免疫をもっている)ことから「重症化しにくい」理由の一つに挙げられています。

それではさっそく計算していきましょう!

イギリスの人口は、67,220,447人(①)です。

ウイルスを収束させるためには、集団免疫として人口の70%~90%が抗体を持つことですから、今回は最大値である「90%」でチャレンジして計算してみましょう。

集団免疫を90%としたターゲット値は、67,220,447人×90%=60,498,402人(②)です。

イギリス政府の戦略「集団免疫を持たせる」という意味は、この②「60,498,402人に抗体を持たせる」ということをターゲットにしているという意味になります。

では、7月15日時点で抗体を持っている人をみてみましょう。

2回目のワクチン接種を完了している人数は、35,747,834人(③)

デルタ株に感染した人(期間:2020年12月~2021年7月15日)つまり交差免疫を持っている人は、3,128,265人(④)

交差免疫を持っている確度が高い小児(11歳~0歳)の人口は、9,573,122人(⑤)

ターゲット値②から、現時点までに抗体を持っている方々③~⑤を引いた残数が「感染リスクがある」人数になります。

 60.498,402人②

– 35,747,834人③

–  3,072,137人④

–  9,573,122人⑤

=12,105,310人⑥

イギリス政府は、抗体を持たず、感染リスクがある 12,105,310 人(⑥)に対して、いかに抗体を持たせるかが戦術のポイントになります。

感染リスクがあるとみなされる⑥の多くは、何らかの理由でワクチン接種が不要と考えている特に20代、30代であり、且つ感染しても体力的に重症化しにくい。そして当然、彼らに強制的にワクチンを接種させることはできない。

そこでイギリス政府は、マスク規制そしてソーシャルディスタンス規制を解除する施策を行うことで、あえて感染者を増やし、抗体を作らせ、集団免疫を高める政策をとったものと考えられます。

イギリス政府の戦略を数字で見る

では、規制解除することによって、新規感染者数と死亡者数をどのように予測しているのか、戦略は成功するのか?を見ていきましょう。

数理モデル「SEIR」でルンゲ=クッタ法で計算

新規感染者数や死亡者数の予測は、感染症流行の数理モデル「SEIR」を使い、4段4次のルンゲ=クッタ法で計算します。(※)日本国内向けに毎週発行している「新規感染者数予測(曜日別)」も、同様の計算で行っております。)

シミレーションのプランは3つ。

  • プラン(A):マスクもしない、ソーシャルディスタンスもしない、最も感染しやすい環境
  • プラン(B):ロックダウンは解除されるも、公共な場所でのマスク使用などの規制がある環境
  • プラン(C):7月15日の規制解除される前の状態(従来通り)

これら3つのプランにおける、新規感染者数(予測値)の計算結果は次の図1となります。

図1:3つのプラン・シミレーション「新規感染者数(予測値)」

【解説】

グレーのライン(プランA)は、マスクもしない、ソーシャルディスタンスもしない、最も感染しやすい環境での新規感染者数の予測値です。この場合、A地点8月23日に686,901人/日の新規感染者が出ることをピークに減少していく予測となります。[A:8月23日 686,90人]

ブルーのライン(プランB)は、ロックダウンは解除されるも、公共な場所でのマスク使用などの規制がある場合での新規感染者数の予測値です。この場合、B地点8月21日に306,262人/日の新規感染者が出ることをピークに減少していく予測となります。[B:8月21日 306,262人]

オレンジのライン(プランC)は、7月15日の規制解除される前の状態での新規感染者数の予測値です。この場合、C地点9月9日に110,052人/日の新規感染者が出ることをピークに減少していく予測となります。[C:9月9日 110,052人]

では次に、先に計算した感染リスク者に抗体を持たせる必要がある⑥「 12,105,310 人」を達成する月日はどこか、を示したポイントを☆マークで表します。

プランAの場合、⑥の感染者数を☆(D)8月17日に達成することができます(7月19日~8月17日の期間に発症する新規感染者数合計:12,151,500人)。

プランBの場合、⑥の感染者数を☆(E) 9月11日に達成することができます(7月19日~9月11日の期間に発症する新規感染者数合計:12,200,385人)。

プランCの場合、⑥の感染者数☆(F)を来年2022年5月以降に達成することができます(7月19日~2022年5月の期間に発症する新規感染者数合計:12,210,000人)。

同様のポイントで、死亡者数の計算結果(図2)を見てください。

図2:3つのプラン・シミレーション「死亡者数(予測値)」

イギリス政府の戦略は成功するのか?

結論:集団免疫85%以上を、9月11日に達成する可能性が高く、英ジョンソン首相の「秋までにはピークアウトする」という裏付けに近いものと判断できます。

イギリス政府が発表した内容、つまりプランBに相当する「ロックダウンは解除するが、公共な場所でのマスク使用などの規制は行う」場合、集団免疫90%を達成するために必要な12,200,385名を☆( E )9月11日に達成することができます。死亡者数も☆( E )10月1日までに25,511名(死亡率0.2%)に抑えられることが可能と考えることができます。(病床数も122,312床を確保しており、予測値の25,511名は病院でひっ迫することなくカバーできる数値です。)

集団免疫90%という意味は、抗体を持っている人間が90%いることを示していますので、コロナウイルスが他の人のカラダに侵入しても、ほとんどが抗体を持っているため、感染できず変異もできない状態、つまりSARS-Cov-2コロナウイルスの終息を告げることを意味します。

イギリス政府が集団免疫70%をターゲットにしているのか?80%なのか?分かりかねますが、90%でも実現性は高く、しかも国民そして社会経済への影響も少なく、まさに英ジョンション首相が述べたように「今しかない!」と決断に至ったものと考えられます。

集団免疫75%~90%のターゲット値を達成する日は、次のような予測となります。

集団免疫75%80%85%90%
目標人口50,415,33553,776,35857,137,38060,498,402
ワクチン接種完了人数35,747,834 35,747,834 35,747,834 35,747,834
免疫獲得人数3,072,137 3,072,137 3,072,137 3,072,137
交差免疫者数9,573,122 9,573,122 9,573,122 9,573,122
感染リスク者数2,022,2435,382,2658,744,287 12,105,310
目標を達成する日8月2日8月16日8月27日9月11日
新規感染者数合計2,192,5805,637,3898,925,89612,200,385
死亡者数ピーク日8月21日9月4日9月16日10月1日

本ブログ執筆時(7月27日時点)、規制解除された19日から27日までの感染者数は311,587人と週刊平均37,710人。一方、ワクチン接種率も19日時点で53.18%であったのが、68.72%と接種率が増加し(10,446,057人、15.54ポイント増となるワクチン接種率)。この状況下において、集団免疫85%は達成するものと見込まれ、イギリス政府の施策は先ずは計画通り。と判断できます。

さて、これからの日本は?

イギリスの人口の2倍を抱える日本は、2回目ワクチン接種完了者は25.5%です(7月27日現在)。現状の対策とスピード感で進むと、新型コロナウイルスを収束させるのに、先の計算で算出したイギリスのプランCのパターン(来年2022年5月以降に収束)以上の日数(期間)が必要との計算になります。

現状のままでは、来年の今頃も同じような緊急事態宣言を繰り返している可能性が高いものと考えられます。

日本政府そして日本経済のハブである東京都には、イギリス政府と同様な戦略と戦術そして準備(傾斜配分によるワクチン接種施策と集団免疫の獲得施策、病床数確保、そしてこれらを見える化するDXの整備など)が、いつから、いつまでに、そしてどのタイミングで規制なく安心して社会生活ができるようになるのか、国民に見える形で説明があることを期待します。

タイトルとURLをコピーしました