2021年に入り、イギリス、ブラジル、南アフリカで発現した新型コロナウイルスの変異株が日本でも出現したことが話題になっています。
当記事では、国際機関のエビデンスをベースに、新型コロナウイルスは「どのように変異してきているのか?」、「変異株の種類がいくつあるのか?」そして、「変異株は国によって違うのか?」←このような疑問に答えます。
新型コロナウイルスは変異し続け、現在、12の系統に分類される!
新型コロナウイルスは、宿主(人)のカラダの中に侵入し、ウイルス自身の遺伝情報(ゲノム)を繰り返しコピーし感染を広げていきます。何度もコピーしていくなかで、遺伝情報の一部が正しくコピーできずにコピーミスが発生し(これが変異と呼ばれている)、ミスによって変異した新しいコロナウイルスが誕生していきます。
この遺伝情報を世界中の病院や研究所から集め、どのウイルスが、どのように変異しているかなどを視覚化するためのデータを提供している国際機関のひとつに「GISAID-NextStain」があります。
この機関による「ウイルスの系統付け(家系図みたいなもの)」の取り組みでは、「大規模な変異パターン」と「持続した期間」、そして「地理的な広がり」を持つ遺伝情報をもとにラベル付けをしているのが特徴です。
ラベルの「名づけ方」は、ウイルスの系統が出現した年と、各年アルファベット順にAで始まる大文字で構成されている。
実際のデータ(下の図1)を見てみると、次のように12の系統で分類されています。
- 19A : 新型コロナウイルスが最初に出現した2019年の最初の系統
- 19B:19Aから派生した系統
- 20A:2020年に出現し、19Aから派生した系統
- 20B:20Aから派生した系統
- 20C:20Bから派生した系統
- 20D:20Bから派生した系統
- 20E(EU1):20Aから派生した系統
- 20F:20Bから派生した系統
- 20G:20Cから派生した系統
- 20H/501Y.V2:20Cから派生した系統
- 20I/501Y.V1:20Bから派生した系統
- 20J/501Y.V3:20Bから派生した新しい系統
上の(図2)は、ウイルスの系統別にグラフ化したもので、1つの「点」にはそのウイルス固有の遺伝情報関連がまとめられています。
- ウイルス情報を確認した日付
- ウイルスの系統
- 感染者の在籍国
- 発現した国 など
ちなみに、2021年1月に話題となったイギリスからの変異株は、この遺伝情報をさかのぼってみると、2020年5月11日に20C系統から変異し、同年8月4日に新たな系統(20I/501Y.V1)として発現していることがわかります。
また、(図2)から気になる点としては、世界中でしかも、ほとんどの系統が2020年9月20日前後を境に増加していることが分かります。
この10日前あたりに各国で何が起こったのか?各国の人々の行動形態や各国の対策等の分析など、地政学的な視点での考察も必要になってくるものと考えられます。
世界各国で出現しているウイルス系統は異なっている
それでは次に、各国別に違いがあるのかどうか見てみましょう。
2021年2月9日現在、感染拡大しているイギリス、ブラジル、インドを見てみると、次のようにある特定の系統に集中しているのが特徴です。
・イギリス:「20E(EU1)」と「20I/501Y.V1」の2系統 (図3)
・ブラジル:「20B」と「20J/501Y.V3」の2系統 (図4)
・インド:「20B」「20H/501Y.V2」「20I/501Y.V1」「20J/501Y.V3」の4系統 (図5)
そして、世界でもっとも感染者数が多いアメリカでは、12種類ほぼ全系統のウイルスが存在していることがわかします。(図6)
日本は2つの系統に集中している
日本は下の(図7)のとおり「19B」と「20B」の2つの系統に集中していることが分かります。(系統ラインが密接し、20Dの系統ライン上に存在しているように見えますが、データ上は20B系統のライン上に存在しています)
また、このグラフの右上の点をみると、既に2021年1月2日にイギリス、ブラジル、南アフリカで発生している新たな変異種も、日本で検出されていることが分かります。
一方、中国は「19B」の系統に集中していましたが、2020年3月までには終息し、その後、他の系統のウイルスが出現してもほとんど終息していることが分かります。
まとめ
ゲノムデータ「GISAID- NextStain」から、新型コロナウイルスは12の系統に分類することができ、そして各国がどの系統にどのくらいの期間、集中的に感染しているのかが分かります。
- 19A : 新型コロナウイルスが最初に出現した2019年の最初の系列で、主に中国に分布
- 19B:19Aから派生した系統で、主に中国に分布
- 20A:19Aから派生し、2020年に出現した系統で、世界的に分布
- 20B:20Aから派生した系統で、世界的に分布
- 20C:20Bから派生した系統で、世界的に分布
- 20D:20Bから派生した系統で、南アメリカ・南ヨーロッパ・南アフリカに集中
- 20E(EU1):20Aから派生した系統で、ヨーロッパに集中
- 20F:20Bから派生した系統で、オーストラリアに集中
- 20G:20Cから派生した系統で、北アメリカに集中
- 20H/501Y.V2:20Cから派生した系統で、南アフリカの集中
- 20I/501Y.V1:20Bから派生した系統で、イギリスに集中
- 20J/501Y.V3:20Bから派生した新しい系統
ここまでで分かった事から、次のような心配事が生まれますね。
・国境を越え、他の国から違う系統のウイルスが入ってきたら、どう対処するのか?
・海外に渡航し、日本に無い系統のウイルスに感染した場合、どんな症状になるのか?
・開発されたワクチンは、すべての系統のウイルスに効果的なのだろうか?
しかし、過去の歴史からこのような心配事も、まもなく無くなるものと考えられます。それは、私たちの先祖が「ペスト」や「スペイン風邪」で打ち勝ってきた教訓「集団免疫」を獲得することが唯一の方法があるからです。
そして、それを効果的に実現するための手段が「ワクチン」の開発と接種です。日本だけでなく世界各国でワクチンによって集団免疫を目指し、徹底的な予防行動をとってウイルス感染を押さえつけ終息させることです。
2021年2月9日時点では、イギリス、ブラジル、南アフリカでの新しい変異株(系統では「20H~20J)へのワクチン効果の有無がまだ調査中ですが、20G系統までのウイルスには抑え込みに成功していると考えられます。
今までの他のワクチン同様、常に新しい変異株に対応してアップデートして開発されるため、新しい変異株が出現しても対応できるはずです。現代社会において、ペストやスペイン風邪が脅威ではなくなったように。
ゲノム分析と追跡によってワクチンの開発や早めの感染予防対策につながることから、世界各国の研究所や大学で調査・研究が行われています。
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