こんにちは。
ヘルスケア・アドバイザーの前田 義徳(マエダ ヨシノリ)です。
世界各国でオミクロン株(B.1.1.529)の症例が報告されています。このブログ記事では、厚生労働省/米国CDC/欧州ECDCなどのデータを元に、現時点で分かっていることをまとめました。
新しい変異株の発見までの経緯
オミクロン株の発見からWHOが命名するまでの経緯をまとめると、次の通りとなります。
① 2021年11月11日、「ボツワナ」の64歳男性から採取した検体から、インペリアル・カレッジ・ロンドンのウイルス学者トム・ピーコック博士が新しい亜種(B.1.1.529)を発見。
② 11月13日、「南アフリカ」の68歳男性から採取された検体からも検出。
③ それ以降、「南アフリカ」において32歳女性、16歳男性と、幅広い年齢層で検出。
④ 南アフリカの新規感染株は、従来のデルタ株から「B.1.1.529」に置き換わった。
⑤ 11月26日、ECDCはこの亜種(B.1.1.529)をデルタ株と比較し、免疫逃避と潜在的な伝達性の増加の懸念から「懸念される亜種(VOC)」に分類。同時にWHOもVOCに分類し、ギリシア文字「オミクロン」というラベルを付けた。
「オミクロン(Omicron)」とは、アルファやデルタと同様に「ギリシャ文字」で15番目の文字です。新型コロナウイルスの変異株は12番目の「ミュー株」まで命名されており、予定ではその次の13番目「nu(ニュー)」、14番目の「xi(ザイ、サイ、シー)」であったが、これらは一般的な発音や氏名であることから、混乱を避けるためにスキップし、15番目の文字である「オミクロン」がラベル付けされた。
アフリカ地域の2021年11月1日~11月30日までの新規感染者において、オミクロン株での検出数は表1の通りとなります。
国または地域 | 検出総数 | オミクロン株検体 |
南アフリカ | 249 | 172 |
ボツワナ | 99 | 19 |
ガーナ | 53 | 33 |
ケニア | 3 | 0 |
メイヨット | 15 | 0 |
ナイジェリア | 1 | 0 |
コンゴ | 8 | 1 |
ラ・レユニオン | 86 | 1 |
セネガル | 4 | 0 |
感染力は強いのか?
オミクロン株と他の変異株との比較
ゲノム配列解析の国際機関(GISAID)のデータから、オミクロン株はオリジナル(武漢型)の20B系統(Pango系統)からの亜種で、21K(B.1)に属します。つまり、デルタ系統株から新たに変異した株ではないことが分かります。
オミクロン株は、オリジナルと比較してスパイク・タンパクに30のアミノ酸の変化、3つの欠失、1つの追加が特徴です。
これらの変化のうち、15個が受容体結合ドメイン(RBD)部「319~541基」に位置しています。
今までの主な新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株との比較をまとめると、表2の通りです。
下表にて、黄色でマーキングしている部は「各株で共通している変異部」であり、赤色でマーキングしている部は「オリジナルと比較して欠損している変異部」を示しています。
アルファ株 (B.1.1.7) | デルタ株 (B.1.617.2) | オミクロン株 (B.1.1.529) | |
1 | D614G | D614G | D614G |
2 | P681H | P681R | E484A |
3 | Y144- | L452R | P681H |
4 | N501Y | T478K | Y144- |
5 | H69- | D950N | N501Y |
6 | V70- | T19R | H69- |
7 | D1118H | E156- | V70- |
8 | A570D | F157- | K417N |
9 | T716I | R158G | T95I |
10 | S982A | T478K | |
11 | H655Y | ||
12 | S477N | ||
13 | Y145D | ||
14 | A67V | ||
15 | G142- | ||
16 | V143- | ||
17 | N211- | ||
18 | L212I | ||
19 | G339D | ||
20 | S371L | ||
21 | S373P | ||
22 | S375F | ||
23 | N440K | ||
24 | G446S | ||
25 | Q493R | ||
26 | G496S | ||
27 | Q498R | ||
28 | Y505H | ||
29 | T547K | ||
30 | N679K | ||
31 | N764K | ||
32 | D796Y | ||
33 | N856K | ||
34 | Q954H | ||
35 | N969K | ||
36 | L981F |
そして更に、12月6日時点の検出データによると、既にオミクロン株自身も変異を続けており、20種以上に変異していることが分かります。
系統から注意しなければいけないことは、オミクロン株はデルタ株から変異した系統株ではないこと。そして、各国で新たな感染者が感染しているデルタ株自身も変異していることも注意する必要があります。
- シンガポール: デルタ株変異種AY.23
- イギリス: デルタ株変異種AY.4.2、AY.25、AY.30、AY.33
- ドイツ:デルタ株変異種AY.4.2、AY.25、AY.30、AY.33
- 中国:デルタ株変異種AY.23、AY.25、AY.37、AY.4.2
- アメリカ:デルタ株変異種AY.25
新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)は、ヒトの自然免疫およびワクチンによる誘発免疫を回避するために、ヒトのカラダの中でコピーを続け、コピーミスを繰り返し、伝染性と病原性を増加させ、「懸念変異体(VOC)」として出現し続けます。 このSARS-Cov-2による継続的な抗体回避がどのような構造になっているのか、その構造基盤を明らかにした研究論文が科学誌サイエンスに掲載されています。 タイトル:「Structural basis for continued antibody evasion by the SARS-CoV-2 receptor binding domain」
感染しているのはデルタ株か?オミクロン株か?の判断
新規感染者がデルタ株に感染しているのか?あるいはオミクロン株に感染しているのか?の判断は比較的容易で、TaqPathテストS遺伝子ターゲット(SGTF)においてデルタ株では見られない2つの欠損(H69-、V70-)があるかどうかで見分けることができます。
これにより、各国でのオミクロン株による感染の有無は比較的早く検出することができ、多くの国々で発見・検出されるものと予測されます。
2つの欠損(H69-とV70-)は、上表(表2)で分かる通りアルファ株でも見られますが、現在はアルファ株は既にデルタ株に置き換わっているため、この2つ欠損の有無でデルタ株なのかオミクロン株なのか判断は、比較的早くそして容易とされています。
オリジナル株やデルタ株と比較して数多くの変異が見られることから、オミクロン株はフィットウイルスであり、オミクロン株とデルタ株が長期間「共存」することになれば、ヒトは両方の株に感染する可能性があることも考えられます。
両方の株に感染する影響は、2種類のウイルスが組み合い、遺伝子を共有し、遺伝子を交換する機会を与えてしまうことであり、更なる脅威につながります。
オミクロン株の感染力(伝染性)は?
オミクロン株はどのくらいの速さで集団全体に広がるのか?
これには、新型コロナウイルスのいかなる形態に対しても「免疫を持っていない人」が、どのくらいの速さで感染し、伝染していくのかを計測する実行再生算数(R0)が一つの指標となります。
さまざまな研究所で検証中ですが、12月6日時点でのオミクロン株のR0は、3~6の範囲内の可能性があることが示唆されている。
R0が「3」とは、1人の感染者が、平均して3人以上に感染することを意味しています。 数値の比較としては、風邪のR0が「2.5」、コロナ第4波(アルファ株)が「3.7」、第5波のデルタ株が「6」などと比較するとイメージしやすい。
オミクロン株による重症度は?
12月6日時点、複数の大学や研究所によると、オミクロン株による症状は、無症状か一般的な風邪の症状と同程度(軽度の症状)と発表しています。( 12月6日時点 、重症ゼロ、死亡者ゼロ)
軽度の初期症状を具体的に見てみると、次のような結果です。(頻度が高い順に列挙)
南アフリカで確認されている初期症状 (頻度が高い順に列挙)
- 頭痛
- 鼻水
- くしゃみ
- ノドの痛み
- 嗅覚の喪失
- 継続する咳
ロンドンで確認されている初期症状 (頻度が高い順に列挙)
- 極度の疲労(倦怠感)
- 発熱
- 身体の痛み
- 頭痛
- 寝汗
- 鼻水
- くしゃみ
一般的な風邪は、COVID-19とは異なるウイルス株によって引き起こされます。オミクロン株による症状は、風邪と同様な軽度の症状を引き起こすことが多いため、風邪なのか新型コロナウイルスに感染したかのかどうか、その違いを区別することが非常に困難な状況下です。同様に、2回目のワクチン接種済の人も、このような一般的な風邪のような軽症状であるため、オミクロン株に感染したかどうかの判断もしにくい。そのため、完全にワクチンを接種した人でも、風邪のような症状に注意し、PCRテストを受けることが重要になってくる。
オミクロン株は、デルタ株による感染を超えるのか?
では、変異株は発見されてからどのような期間で、新しい変異株に置き換わっているのか見てみましょう。
下図は、2020年12月~2021年11月末までに検出された変異株の推移です。
グレー:オリジナル(武漢型)
ブルー:アルファ株
グリーン:デルタ株
この図から、次のことが分かります。
- 変異株は、発見されてからおおよそ4カ月後に50%を超え、その後、徐々に新たな変異株に置き換わっていく
- 2021年4月~6月においては、オリジナル(武漢型)からデルタ株まで、全ての変異株が存在しており、その後、デルタ株に置き換わり現在に至っている
- 12月6日時点、デルタ株94%、オミクロン株3%、その他3%という状況である
デルタ株をいつ超えるのか?
12月6日現在、デルタ株は94%、オミクロン株は3%という状況ですが、オミクロン株が50%を超えるのは「いつか」ということを検証してみましょう。
(計算する上では、非感染者、感染者、ワクチン接種数、ソーシャルディスタンスレート、マスク使用率など、世界各国によって異なるため、純粋に、これまでの変異株の変遷データを使用しています。また、感染症の成長と減少が指数関数的であり、株の世代間隔が同一であると仮定しています)
感染学的に、感染の50%以上を占めるようになるまでの期間は、次の2つの要因に大きく左右されます。
- 新型コロナウイルス感染のうち、オミクロン株が占める「現在の割合」
- デルタ株に対するオミクロン株の相対的な成長の優位性(デルタ株に対する成長の増加率と定義します)
新型コロナウイルス感染モデリングすると、「デルタ株に対する成長の優位性が大きいほど、また、オミクロン株による現在の感染の割合が大きいほど、オミクロン株が50%を占めるようになるまでの予想時間は短い」という結果に至ります。
例えば、新型コロナウイルス感染におけるオミクロン株の現在の割合が1%と仮定した場合、デルタ株に対する成長の優位性が120%以上であれば、2022年1月1日にはオミクロン株が50%以上を占める。
一方、 オミクロン株の現在の割合が同じく1%と仮定し、デルタ株に対する成長の優位性が30%以上であれば、2022年3月1日にはオミクロン株が50%以上を占める。
オミクロン株が全体の50%以上になるまでの予想期間(モデリング結果)
オミクロン株の現在の割合 | デルタ株に対する優位性 | オミクロン株が50%を超える予想月日 |
1% | >120% | 2022年1月1日 |
0.1% | >230% | 2022年1月1日 |
0.01% | >390% | 2022年1月1日 |
1% | >30% | 2022年3月1日 |
0.1% | >50% | 2022年3月1日 |
0.01% | >70% | 2022年3月1日 |
1% | >15% | 2022年5月1日 |
0.1% | >25% | 2022年5月1日 |
0.01% | >45% | 2022年5月1日 |
ワクチンの効果は?
ファイザー社、モデルナ社、アストラゼネカ社などのワクチンメーカーは、「ワクチン効果の低下の可能性を示唆し、オミクロン株に合わせたワクチンを数カ月で製造できる」とコメントしています。
(現時点では各社、調査・研究中のため具体的な公表データはまだありません。)
新しいワクチンは、いつ頃提供可能なのか?
現在使用されているmRNA ワクチンの開発、製造、出荷をベースに考えると、開発は1日、製造基盤構築2~3か月、臨床試験(第1~3相) 3~4か月 、申請・承認(3~4か月)の過程を踏まえると、2022年10月~11月に出荷と予測できます。
オミクロン株、今後の対策は?
オミクロン株の重症度は、現時点では先のデータのように一般的な風邪と同程度の軽度の症状を引き起こすとされています。
「オミクロン株に感染しても、無症状か軽症だから大丈夫!」と思って良いのでしょうか?
新型コロナウイルスは、長期後遺症(Long COVID)あるいは全身感染症とも呼ばれており、一般の風邪と大きく異なり、これらの後遺症を発症する恐れがあることに、科学者たちが強く懸念する理由の一つになっています。
オミクロン株も新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)に変わりはなく、新型コロナウイルスの特徴であるなんらかの感染症を誘発すると考えられています。特に、Long COVIDは、無症状者あるいは軽症者に多く見られるのも特徴です。
下図は、イギリス、ヨーロッパ、米国、中国、オーストラリア、エジプト、メキシコの各国、計15カ所の研究所が追跡した患者コホート(感染者44,799名、17歳~87歳の男女)で、調査期間は110日間における後遺症のデータです(参照:科学誌ネイチャー)。
100日以上続く倦怠感(53%)から、数か月続く頭痛(44%)や記憶力と集中力の低下(脳の霧)(27%)、抜け毛(25%)など48種類の症状のうち少なくとも1つが、感染者の80%で引き起っています。
どのような後遺症を発症するのかどうか、まだまだ不明な点が多いオミクロン株。
今までの変異株の感染推移そしてデルタ株の変異状況から予測して、日本でも12月下旬から徐々に増える可能性が高いです。
オミクロン株が出現したとしても、3密を避け、手洗い、マスク着用など、これまでと変わらぬ感染対策を続けることが必要です。